
リスは食べることが大好きでした。イヌは自分がなにを好むのかわかりませんでした。

リスは今日もおいしそうにパクパク。おイモをパクパク。イヌはしあわせそうなリスを見て思いました。『そんなにおいしいのかなぁ?』ぼくも食べてみたいな。

その日からリスのところにはイヌが毎日やってきました。やってきてはリスから食べ物を分けてもらって、一緒にたべるのです。

食べ物を分ける代わりに、リスは条件を出しました。「わたしのほしいものと交換しましょう」リスの欲しいものと聞いて、イヌは甘い果実かなにかだろうと考えました。

でも、それはちがいました。リスが欲しいと言いたものは、筆や紙や絵の具などです。イヌがそれらをそろえて渡すと「ありがとう!」とうれしそうにリスが言いました。

その日からリスは筆を持ち紙にむかうようになりました。リスはおいしいものもすきですが、絵を描くことも食べることと同じぐらいに大好きだったのです。イヌはずっとそれを見ていました。イヌは絵を描いたことがないので、描くことを自分が好むかもわかりません。でも、リスが描いている姿を見るとワクワクしました。徐々に彩られていく過程が美しいと思いました。

次の日からイヌは様々な食べ物を持っていきました。リスが食べたことのないものもあり、リスはたいへん喜びました。その代わりにとイヌはリスに絵を教えてほしいと頼みました。

それからというものリスとイヌはいつも一緒。おいしいものを食べて、絵を描いて、楽しい日々を送りました。

リスはおいしいものを食べることも、絵を描くことも同じぐらい好きでした。その二つさえあれば、リスはどこにいたって幸せだと思っていました。ウサギのように月で独りぼっちでも、おいしいものと絵が描ければリスは満足なのです。でも。――。
イヌはリスのようにおいしいものを食べても、食べることが好きにはなれませんでした。リスのように絵を描くことが好きにもなれませんでした。カニのように、月に独りぼっちでただそこにいるだけのものにはなりたくありませんでした。だから――。
イヌはリスのようにおいしいものを食べても、食べることが好きにはなれませんでした。リスのように絵を描くことが好きにもなれませんでした。カニのように、月に独りぼっちでただそこにいるだけのものにはなりたくありませんでした。だから――。

今日もリスはおいしいものを食べて、絵を描きます。でもそこにイヌはもういません。

リスはおいしいものと絵を描ければ幸せのはずなのに、何か足りないと感じています。
イヌはリスの描いた幻想だったのでしょうか――。
おわり
おわり
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